千葉県匝瑳市に広がる「匝瑳おひさま畑」

畑の上には太陽光発電のパネルが並び、その下では有機大豆や麦が育てられています。発電と農業を同じ土地で行う「ソーラーシェアリング」の仕組みを取り入れながら、
耕作放棄地の再生や環境負荷の少ない農業に取り組んでいる場所です。
LOVEGで使用している国産有機大豆の一部も、この畑で育てられています。
今回は、匝瑳おひさま畑の運営に携わる山内さんと、農業の現場を担当する天久(あめく)さんに、
これまでの歩みや農業の魅力、LOVEGとの出会いについて伺いました。


3.11をきっかけに、エネルギーを自分たちの手で

山内さんが現在の活動を始める大きなきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災でした。
当時、山内さんが暮らしていた地域では計画停電が実施されました。
その経験を通して、「自分たちが使う電気を、自分たちでつくりたい」という思いが芽生えたといいます。
「もともと食や環境問題にも関心があり、震災後はエネルギーと食をテーマにした市民活動を立ち上げました。その活動が会社へと発展し、現在のソーラーシェアリング事業へとつながっていきます」
それ以前は、農業やエネルギーとは異なるIT業界で働いていたという山内さん。

一方で、長年にわたり和太鼓のグループでも活動してきました。出演していたのは、夏祭りのような伝統的な舞台だけではありません。野外フェスやアースデイをはじめとした、環境やカウンターカルチャーに関心を持つ人々が集まるイベントにも数多く参加してきました。
「音楽をやっている人は、メッセージ性や社会への違和感を大切にする人が多かった。環境問題や反戦運動に関心を持つ人たちも、音楽の周りにたくさんいました」
若い頃から触れてきた音楽やカルチャーも、現在の活動につながるひとつの源流なのかもしれません。
現在、山内さんが取り組むのは、エネルギーをつくること、食料をつくること、そして和太鼓を続けること。「やりたいことをやっていたら、すべてが今の仕事や暮らしにつながっていました」
山内さんにとって、仕事は人生と切り離されたものではなく、生き方そのものになっています。


諦めきれなかった、農業への思い

畑の現場を担う天久さんは、大学卒業時から農業を仕事にしたいと考えていました。
食べることが好きで、身体を動かすことも好きだったことから、自分には農業が一番合っていると感じたそうです。大学では法律や経済を学んでいましたが、卒業後に改めて農業大学校へ進学。農業を学び、ルーツのある沖縄で農業を始めようとしました。しかし、農家の出身ではなく、土地も持っていなかったため、独立して農業を続けることは簡単ではありませんでした。
一度は農業から離れ、デスクワークを中心にさまざまな仕事を経験します。
それでも、農業をしたいという気持ちは消えませんでした。
「40歳を目前にして、このままでは農業をやらずに終わってしまうと思ったんです」
農業を仕事として続けられる環境を求め、沖縄を離れて関東へ。畜産の現場などを経験した後、地域の農業体験プロジェクトを通じてソーラーシェアリングを知りました。
農業を志す人にとって、最も大きな課題のひとつが、安定した収入を得ながら仕事を継続できるかどうかです。
匝瑳おひさま畑では、太陽光発電による収益を農業経営にも還元する仕組みがあります。その存在が、天久さんにとって農業の世界へ戻る後押しになりました。

「農業を続けるためのベースとなる収益がある。その安心感があったから、ここで働きたいと思いました」


農業と発電で、太陽の光を分かち合う

ソーラーシェアリングとは、農地の上部に間隔を空けて太陽光パネルを設置し、発電と農業を同時に行う仕組みです。
一般的な太陽光発電施設では、山林を切り開いたり、土地全体をパネルで覆ったりすることがあります。
地域との摩擦や、造成による土砂災害などが問題になるケースもあります。
一方、ソーラーシェアリングでは、すでに農地として存在する土地を活用します。農業を継続しながら再生可能エネルギーを生み出せることが、大きな特徴です。
日本各地では農業従事者の高齢化が進み、後継者のいない農地や耕作放棄地が増えています。ソーラーシェアリングには、こうした土地を再び農地として活用し、農業経営を支える可能性があります。
「ソーラーシェアリングという名前には、太陽の光を発電と農業で分かち合うという意味があります。この“シェアする”という考え方が、僕はとても好きなんです」
発電のためだけに土地を使うのではなく、農業とエネルギーが共存する。匝瑳おひさま畑では、あくまで農地を生かすことを土台として、エネルギーづくりが行われています。


毎年違うから、農業は刺激的

農業の魅力について尋ねると、天久さんから返ってきた言葉は「刺激的」でした。
農業は天候に大きく左右されます。昨年うまくいった方法が、今年も同じように通用するとは限りません。
雨の量、気温、土の状態、雑草の生え方。さまざまな条件を見ながら、種をまく時期や肥料を与えるタイミングを判断していきます。
「植物が育ちやすい環境をこちらが整えると、きちんと応えてくれるんです。天気や植物と会話をしているような感覚があります」
種をまいた後、芽が出た瞬間には「今年もいけるかもしれない」と希望を感じる。
台風や大雨を乗り越えて無事に収穫できた時には、喜び以上に安堵を感じるといいます。
大豆の栽培は基本的に一年に一度です。
「これから農業を15年続けたとしても、経験できるのはあと15回しかありません」
一度として同じ年がなく、完成もない。だからこそ、農業は毎年新しく、刺激的なのだと話します。
山内さんにとっても、農業の喜びはやはり収穫にあります。
震災をきっかけに、自分でも米づくりを始めた山内さん。エネルギーと食料を自給できれば、どのような状況でも生きていけるのではないかと考えたそうです。
自分で育て、収穫し、食べる。
「最後に食べて、おいしいと思えることが、農業の一番の魅力かもしれません」


荒れた土地を、もう一度畑に戻す

現在、匝瑳おひさま畑がある地域は、もともと農業に適した土地ばかりではありませんでした。
およそ40年前、起伏のある土地を平らにして農地を増やしたことで、栄養のある表土が削られ、痩せた土地になってしまった場所もあります。
排水が悪い場所や、大量の堆肥が放置されていた場所、海外由来の飼料を通して持ち込まれた生命力の強い雑草が広がった場所もあるといいます。
農地として使うことが難しくなり、耕作をやめる人が増えた地域。その土地を再生し、再び作物を育てられる場所に戻すことも、匝瑳おひさま畑の大切な仕事です。
現在事務所が建っている場所も、かつては廃棄物が放置され、地域で問題になっていた土地でした。
建物やゴミを撤去し、土地を整え、約3年をかけて再生。現在は、畑全体を見渡すことのできる活動の拠点となっています。
「地域で一番ひどかった場所が、ここまで変わる。その姿を見せることにも意味があると思っています」
完成した畑だけを見ると、その土地がかつてどのような状態だったのかは分かりません。
しかし、一粒の大豆の背景には、地域の課題と向き合い、荒れた土地を少しずつ再生してきた人々の時間が積み重なっています。


土を耕さない、不耕起栽培への挑戦

匝瑳おひさま畑では、環境負荷をさらに減らすため、「不耕起栽培」にも挑戦しています。
一般的な農業では、土を耕して柔らかくした後に種をまきます。不耕起栽培では、その名の通り土をできるだけ耕さずに作物を育てます。
土の中には、多くの微生物や生きものが存在しています。土を大きくかき混ぜないことで、その生態系を守ることができます。
また、土壌に蓄えられた炭素は、耕すことによって空気中に放出されるといわれています。
不耕起栽培には、土壌に炭素をとどめ、気候変動への負荷を軽減する可能性もあります。
一方、耕さないことで雑草が増えやすくなるなど、実践には難しさもあります。
匝瑳おひさま畑では、大学の研究者と協力して専用の除草機を開発。大豆の根を傷つけないよう、雑草の茎だけを処理する方法や、除草のタイミングを研究してきました。
ライ麦などを育てて地面を覆い、倒した植物をそのまま土の上に残す「カバークロップ」の方法も試しています。
地表を植物で覆うことで、新たな雑草が生えにくくなり、土の湿度や温度も保たれます。
「人間がすべてをコントロールするのではなく、微生物や植物に仕事をしてもらう。そのための環境を整えることが、私たちの仕事です」
まだ試行錯誤の途中ではありますが、少しずつ成果も見え始めています。
ソーラーシェアリングと不耕起栽培を組み合わせた、次世代の農業。その方法を確立し、より広く伝えていくことも、これからの目標です。


土地に受け継がれてきた「ヒュウガ」という大豆

匝瑳おひさま畑では、農薬や化学肥料に頼らず、有機的な方法で大豆を育てています。
栽培されている品種のひとつが「ヒュウガ」です。
もともとは熊本県で開発された品種ですが、匝瑳の温暖な気候にも適しているといいます。
地域の農家が約20年にわたって種を守り続け、その種を匝瑳おひさま畑が受け継ぎました。
「この土地で育ち、ここに馴染んできた大豆です。種を途絶えさせず、次の世代へつないでいきたいと思っています」
有機栽培であることや、ソーラーシェアリングの下で育てていることだけではありません。
土地に合う種を守り、地域で育て続けること。その積み重ねも、匝瑳おひさま畑の大豆を形づくっています。


偶然、隣り合ったブースから始まったLOVEGとの出会い

匝瑳おひさま畑とLOVEGが出会ったのは、パタゴニアの店舗で開催されていたマーケットでした。
雨の降る日、偶然隣り合った二つの出店ブース。匝瑳おひさま畑では、大豆を使ったコーヒーなどを紹介していました。
そこで交わした会話をきっかけに、両者の関係が始まりました。
当時、LOVEGは自分たちが本当に届けたい大豆食品をつくるため、小さな工場を立ち上げる計画を進めていました。
しかし、国産の有機大豆は生産量が非常に少なく、安定して仕入れることが簡単ではありません。
すでに販売先が決まっている生産者も多く、新たな取引先を見つけることは困難でした。
そんな中、匝瑳おひさま畑から大豆を分けてもらえることになり、現在の取り組みへとつながっていきます。
山内さんは、LOVEGという名前やブランドの考え方にも共感したと話します。
植物や愛、地球、エネルギー。LOVEGという名前に込められた複数の意味が、農業とエネルギーをつなぐ匝瑳おひさま畑の活動と重なりました。
「出会う前から、LOVEGの中にエネルギーという考え方が入っていたことに驚きました。ここなら大豆を託せると思ったんです」
天久さんにとって印象的だったのは、大豆が商品として表現されていく姿でした。
「私は畑で作物を育てることはできますが、それをデザインや発信の力で届けることはできません。自分たちの大豆が、こんなに素敵な姿になっていくことがうれしいです」
それぞれの得意なことを持ち寄り、生産者とつくり手が互いに足りない部分を補い合う。会社は違っても、ひとつのチームのような関係が生まれています。


自分たちの大豆から生まれた、オーガニックソイビーンオイル


匝瑳おひさま畑の大豆を使ったLOVEG商品のなかで、二人が特に印象深いと話すのが、オーガニックソイビーンオイルです。
国産有機大豆を圧搾してつくる大豆油は、日本国内でも非常に珍しいものです。
一般的な大豆油は、油を効率よく抽出するための科学的な工程を経てつくられ、その後に残った大豆かすが、飼料や加工食品の原料として使われることが主流です。
LOVEGでは、国産有機大豆を自社工場で圧搾して大豆油を、その過程で生まれる脱脂大豆粉からソイミールを作っています。有機大豆を無駄なく利用して、大豆から2つの製品を製造しています。
「自分たちが育てた大豆から油ができるという発想は、最初はありませんでした。実際に商品になって食べてみると、本当にうれしいですね」
天久さんは、普段の料理やお弁当づくりにも大豆油を使っているそうです。
おすすめの食べ方は、味噌汁の仕上げに少量を加えること。
大豆のやさしい香りとコクが加わり、いつもの味噌汁がより豊かな味わいになります。
大豆は、日本の食文化を支えてきたもの
豆腐、味噌、醤油、納豆。
日本の食文化において、大豆は欠かすことのできない存在です。一方で、国内で消費される大豆の多くは海外からの輸入に頼っています。
日本で有機大豆で大豆を育てる生産者は、さらに限られています。
海外では、大豆は主に家畜の飼料として捉えられることもあります。しかし日本では、古くから発酵や加工の技術を通して、大豆そのものを大切な食材として食べてきました。
「日本では、大豆をこれだけ手間をかけて育て、さまざまな形で食べてきました。その文化を伝えられることにも誇りを感じます」
植物性のタンパク源として、大豆はこれからますます重要になると考えられています。

ただ肉の代わりとして食べるのではなく、日本の食文化を支えてきた食材として、改めてその価値を見直すこと。
匝瑳おひさま畑とLOVEGは、生産と商品づくり、それぞれの立場から大豆の可能性を伝えています。

背景も含めて、味わってほしい

最後に、どのような人にこの大豆を届けたいかを尋ねました。
山内さんが伝えたいのは、大豆の味だけでなく、その背景にある取り組みです。
ソーラーシェアリングによる再生可能エネルギー、耕作放棄地の再生、生態系に配慮した有機農業、地域に人を呼び戻すための活動。
「それらすべてが重なって、この大豆があります。背景も含めて味わってもらえたらうれしいです」

天久さんは、太陽光パネルの下でも、大豆がきちんと育っていることを知ってほしいと話します。
「日本で大豆をつくることができる。パネルの下でも、しっかり育てられる。そのことを知ってもらえたらうれしいです」
LOVEGが届けたいのも、単に有機JASマークの付いた商品ではありません。
誰が、どのような土地で、何を考えながら育てたのか。その先で、どのような方法で加工し、商品として届けているのか。
一粒の大豆の向こう側にいる人たちの思いや挑戦を、食べる人へとつないでいくこと。
匝瑳おひさま畑で育った大豆には、食とエネルギー、農業と地域の未来を考えるための物語が詰まっています。


山内 猛馬(やまうち たけま)

匝瑳おひさま畑代表。

以前はIT業界で働く一方、和太鼓バンド「GOCOO(ゴクウ)」のメンバーとしてフェスやイベントで活動、現在もエネルギーづくり、農業、和太鼓をライフワークとして続けている。


天久 笑(あめく えみ)

匝瑳おひさま畑 役員・農業担当。

「食べることが好き」「身体を動かすことが好き」という思いから農業の道へ。
自然と向き合い、毎年異なる環境の中で最適な栽培方法を探ることを「刺激的」と語り、土づくりや不耕起栽培にも挑戦している。


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